シン・夏の終わり 第弐話



 

pira365.hatenablog.com

 

目を覚ますと、私は知らない一室にいた。

壁、天井、床――

辺り一面は真っ白で私以外誰もいなかった。

目が醒めた瞬間、腹部に強い痛みを感じた。

ここに来るまで見ていた夢が、自分にとって重たい内容だったこともありその影響で強い痛みを感じているのだろうと思った。

もちろんその当時の私はここに来るまでの過程は知らない。催眠状態で意識がほとんど無かったからだ。

ただ、夢の中で自分が苦しみ喘ぎ、死を感じた瞬間はあった。

死を感じる時に無意識に働く危機回避能力が自分を生かせてくれたのだろう。

やがて意識が戻りつつあると私は現在置かれている状況を理解した。

私は椅子に縄で縛りつけられており手も足も出ない状況であった。

そしてこの部屋の雰囲気、まるで警察署の取調室のような雰囲気を感じさせる。

夜時が近いということもあり腹が鳴る。こういう場面では(刑事ドラマとかでありがちな展開だが)カツ丼を食べつつ取調べをさせられるというのがありがちな展開だが、そんなものはおそらくフィクションなのだろうと推測する。

そう思っているとどんどん腹が減ってくるので、空腹を紛らしつつ改めて状況を整理した。

状況を整理するに、おそらく何者かが私を帰宅中に眠らせ拉致したということだろう。

それからしばらく足を揺らすなどして抵抗を続けること数分。天井の方から何者かが音声合成で作られたかのようなだみ声で語り始めた。

「おはよう。お目覚めのようだな、pira。」何者かがpiraに問いかける。

「お前は何者だ。」

「私か?私はこの星とは異なる星から来た外星人だ。」

「ガイセイジン?」私は片言に聴き返す。

「そうだな……君たちの言葉で分かりやすく言い換えるならば宇宙人とでも言うべきかな?」

「何故このようなことをした。」

「その質問の前に、我々がこの星(とりわけ日本)を標的にした理由について述べよう。」そういうと、外星人は彼らの理念について述べ始めた。

「我々は君たちと共に暮らしたいと考えている。そして、ともにこの国をよりよくしたい。そのためには我々の存在に目を向けるべきだ。」そして外星人は日本の現状について語りだした。

「この国の人達というのはまず先に自分の事や利益ばかりを考え始めると私は思う。」

「しかし、ここ最近になりやれ多様性だとか共生社会だとかSDGsだなどと叫び始め、ようやく私たちのような者達にも目を向けはじめたと思った。」

「しかし、それも単なる絵空事にしか思えない。」外星人は静かに語り続ける。

「昨年SDGsが世間的に叫ばれ、君たちは誰一人取り残さない社会を作ろうと訴えかけたがそのほとんどが環境問題だったように私には思えた。」

「環境問題がSDGsという単語に置き換わり、17個の課題とその下に連なる達成基準や指標というものが見え隠れしてしまっているのではないか。」

「そしてSDGsは君たち、そして私たちが2030年に達成しなければならないものだ。それが1年経った今はどうだ?ほとんどの人はSDGsについて語らなくなりもはや何だったのかといった状態だ。こんな状態では2030年に達成できるとは思えないし、多様性や共生社会と叫んでもそれは綺麗事にしか思えない。そこで私はこの国を侵略対象とすることにした。いくら口では良いことを言っていたとしても結局は自分の事しか考えていないのだからな。」

「そしてまずは、我々外星人に近しい存在であるpira、君を拉致することにした。」

「私が外星人と近しい……?」私は疑問を浮かべる。

確かに自分はSDGsというものに対してやや疑念を抱いている。実際ブログでも話題にしたほどだ。

それと同時にここ数年叫ばれる多様性という言葉に対しても疑問を感じている。

みんな違ってみんないい――口で言うのは容易いが違いを認め合うということはそう簡単にうまくいくものではない。

そして私がこれらの言葉に対して外星人と近しい考えを持つ理由――

おそらくそれは自分がマイノリティという枠にいるからであろう。

とりわけ日本は多数派が生み出した「ふつう」の下に社会が動いている。

その中で私を始め、外星人のような「ふつうではないもの」にとって生きづらい社会になっていることが問題視されることがある。

そうした中で近年多様性やSDGsといったワードが使われるようになってきたのだろう。

しかし、マイノリティに対する理解は相変わらず停滞状態で良くなったようには思えず、このことは私をもやもやさせるのであった。

しばらく考えた後、私は外星人に近しい存在なのかもしれないと考えた。

「ここから出してほしい。」私は強く交渉する。

「この部屋から出たいかpira。ならば条件がある。」そういうと外星人は例のものを持ってこいと黒子に頼み、机の上に封筒を置いた。

「この封筒を開け、指示に従え。」

「とは言うものの今日はもう遅い。今日はもう寝て明日からゆっくり取り掛かれ。」そう言った矢先に私の腹が強く鳴り出した。

「そういえば夕飯はまだだったなpira。何が食べたいか?なんでもいいぞ。」

外星人がそう言うと私は言葉に甘えながら「かつ丼がいい。」と答えた。

そして一夜を過ごした。

 

つづく。